
読書は、論争のためではなく、そのまま信じ込むためでもなく、講演の話題探しでもない。
それは、『熟考』のためのものなのだ。
イギリスの哲学者、フランシス・ベーコンの言葉である。
本を読み終えた後、あーおもしろかった!とか、なるほどなー!と言って終わってしまうのはもったいない。
その本に描かれているテーマを感じ取ったら、それに対して自分はどうなのか、どう思うのか、それを考えて初めてその本は自分の生涯の役にたつのだと僕は思う。
「素晴らしい一冊」と出会うことで、その日から自分の人生の意味が大きく変わることもあるだろう。
今日は、あなたの人生を大きく変えるかもしれない、そんな『名著』を紹介したい。

前回ご紹介しましたのは、1979年~1981年の所謂「ガンダム混迷期」に発行された講談社の「すごいぞ!機動戦士ガンダム」を解説させていただきました。
参考記事:歴史に埋もれた『名著』
こちらの『名著』も大変資料価値は高く、現代ガンダム文学を研究する為に誰もが通るべき1冊だったと言えよう。
今回ご紹介する名著は、娯楽に特化した絵本とは少し方向性が違う「ガンダムと教育」という部分にスポットを当てた珍しい名著である。

栄光社 機動戦士ガンダム もじのおけいこ
残念ながら調べても調べても正確な発行年月日はわからなかった。
この名著を生み出した栄光社は、他にもガンダムの名著を数多く出版している信頼できる出版社だ。
まず、軽く7時間は見ていても飽きないであろう芸術性が高く 味わい深い表紙を見ていこう。

表紙の上部に配置されたタイトル、「機動戦士ガンダム」の文字、下地をピンクにしたことにより、黄色のガンダムの文字が非常にきれいに強調されていて良い。
何より目を引くのは、まるで著者近影のようにあしらわれた「お花の中のガンダム」だ。
そしてその横に配置された「もじのおけいこ」という副題。
著者近影のように配置された「お花の中のガンダム」と相まってまるで、
「文字野尾 恵子」さんが書かれたガンダムかな?と思ってしまう。
「文字野尾恵子」という語感が「東野圭吾」と被っているせいもあるだろう。
もうお気づきの方も多いと思いますがこれは、「文字のお稽古」であり「ガンダム」と「文字の教育」を融合させた画期的な名著なのだ。

続いて中央に位置する書き下ろしのRX78-2ガンダムを見てみよう。
勇ましくビームライフルを撃つガンダム。
黄色のブレードアンテナが、ガンダム混迷期に発売された事を象徴している。
しかし、このガンダムを良く見てほしい。これほど味わい深いガンダムはめったに拝むことができないだろう。
右から飛んできているコアファイターでごまかそうとしているが、どう考えてもウエストが太い。
そして、右手。 どうやってビームライフルを構えているのかを考えているだけであっという間に時間が過ぎてしまう。
飽きやすい子供の視線をいかに釘付けにするか、研究に研究を重ねて導き出された構図なのだろう。
まるでエッシャーの騙し絵を見ているような感覚に陥るすばらしいガンダムだ。
何より感心するのは・・・

ガンダムも基本的にはプログラムで動いている。なので「ON」か「OFF」、「0」か「1」で物事を判断する。
ガンダムの手、つまりマニュピレーターも「握る」か「放す」のどちらかで判断するだろう。その証拠にガンプラのハンドパーツも「握り手」「開き手」の二種類付属するのが一般的だ。
では、なぜ小指が立っているのか?
ビームライフルを握る際、小指を除いた4本の指で充分にビームライフルを保持できるの為、小指を可動させる為の出力を抑えているという表現であろう。戦場ではほんの少しの節約が勝敗に影響するという事も充分に考えられる。おそらくこの絵を描いた人は、この小指でガンダムの持つ教育型コンピューターの優秀さを表現したのであろう。

様々な要素が重なり合い、この絶妙な味わいの表紙を作り上げている。
とてつもない情報量を持った表紙なのでついつい長くなってしまった。
そろそろ、中身をご紹介していきましょう。

「あ」・・・本書は、ガンダムを通して子供たちに文字を教える事を目的としている。
「あ」・・・・あむろ れい。
このように五十音をガンダムに登場するキャラクターに関連させることで、子供を机に向かわせるというすばらしい発想。
しかも、文字のお稽古に「ぬりえ」を融合させ芸術的センスの教育まで取り入れている。
ガンダムは人間の生き方だけでなく、文字まで教えてくれるのか!すばらしい!!
この調子で見ていこう!

「い」・・・・いんく。
うそやん? もうギブ? はやない?
イセリナ・エッシェンバッハとかあるやん、一年戦争とか・・・・。
あ!なるほど!これ南極条約を締結したとき両軍がサインするのに使ったインクか!
こぼれてるのはそれが後々破られていくっていうイメージ! あまりにも奥が深い。

この馬はテキサスコロニーでシャアが乗ってた馬に違いない。

くれよんは・・・くれよんは・・・えっと・・・

・・・・・・。
なんとこの「機動戦士ガンダム もじのおけいこ」にはちょっとしたギミックがある。
なんと、表裏をひっくり返すと・・・「機動戦士ガンダム もじのおけいこ」から・・・

「機動戦士ガンダム チャイルドテスト」に完全変形するのだ。
斜め上に視点を向けつつ、持てる武器の全てを乱射しながら中腰で近づいてくるガンキャノンがいい。

変形しても、お花の中のガンダムは健在だ。よほど気に入ったのだろう。

「チャイルドテスト」は、「もじのおけいこ」とはうって変わって「数字」について学べる。
数字の書き取り練習と、その数字の個数だけ絵が配置されているのでそれに色をぬれる。
数字の勉強より色を塗って遊びたいお子さんに、数字の勉強したら塗ってもいいよと指導していくのだろう。
1はガンダム、2はザクと子供たちがぬりえをしたくなるセレクトがうれしい。
だが・・・

3以降は、なぜそれが選ばれたのかわからないアイテムがセレクトされていく。
3のカバンは、第一話でフラウがアムロの部屋を訪問する際に持ってカバンだろう・・・。
5のハンマーのさきっぽを5個塗るっていうのもなかなかきつい作業だ。

6,7はヘルメット縛り。
7はシャアのヘルメットに見えるが、つばの部分が無いので、キシリアのヘルメット。
人生においてキシリアのヘルメットだけを7つも着色するっていうイベントはここをおいて他には無いだろう。

8の連邦軍のブーツを8個塗る意味もよくわからないが、ビームサーベル9本の塗り絵もよくわからない。
ビームサーベルは白いですしね。

10にいたっては、シャアのベルトのバックル部分だけを10個塗るというもはや修行のレヴェル。 しかもシャアのベルトのバックルも色は白だ。
チャイルドテストとはいったい何のテストなのか?
その答えは次ページにあった。

ハンマーのさきっぽや、ベルトのバックルをひたすらぬらされた後にまっているテスト。
「かずだけいろをぬりなさい」
かなり上からの命令に感じるが、マチルダさんに言われてると思えば「よし頑張ってぬらなきゃ・・・」ってなる。
ガンダムの腰にあるV字のマークや、ブライトさんが弾幕の薄さを伝える重要アイテムの受話器まであってなかなかマニアックだ。
よし、いっちょ頑張ってみるかと思うも・・・

一問目で詰んだ。
恐らく、一見意味の無い物の色をひたすら塗らせる事で、我々人類の心の奥底に眠る何かしらの力が解放され、10個目のV字マークが見えると言う仕組みになっているのだろう。
そう考えると・・・・

この「機動戦士ガンダム もじのおけいこ」という名著は・・・
文字を覚えるのと同時に色彩センスを養い、文字と関連する絵の意味を推察し・・・数字の勉強とともに、苦行とも言える意味の無い塗り絵を行い、人類に眠る新たなセンスを呼び起こす・・・。
きっとこれは、児童向けに出版されたのではなく、「フラナガン機関のニュータイプ研究所」が採用していたニュータイプ育成用テキストのレプリカなのだろうという結論に行き着く。
ニュータイプは、人の革新であり、宇宙へ出た人類の新たなる進化の形。
それを助長させる「機動戦士ガンダム もじのおけいこ」は、間違いなく歴史に埋もれた名著と言えるだろう。
つづく。
- 関連記事
-
- 一撃確殺週末日記 2017.8.6 (2017/08/06)
- 一撃確殺週末日記 2017.7.30 (2017/07/30)
- 歴史に埋もれた『名著』 Vol.2 (2017/07/26)
- 一撃確殺週末日記 2017.7.23 (2017/07/23)
- マビノギ英雄伝 重量を感じるアクション (2017/07/21)