
読書は、論争のためではなく、そのまま信じ込むためでもなく、講演の話題探しでもない。
それは、『熟考』のためのものなのだ。
イギリスの哲学者、フランシス・ベーコンの言葉である。
本を読み終えた後、あーおもしろかった!とか、なるほどなー!と言って終わってしまうのはもったいない。
その本に描かれているテーマを感じ取ったら、それに対して自分はどうなのか、どう思うのか、それを考えて初めてその本は自分の生涯の役にたつのだと僕は思う。
「素晴らしい一冊」と出会うことで、その日から自分の人生の意味が大きく変わることもあるだろう。
今日は、あなたの人生を大きく変えるかもしれない、そんな『名著』を紹介したい。

講談社 たのしい幼稚園のテレビ絵本33
『すごいぞ!機動戦士ガンダム』
この名著は、1979年8月25日に初版が発行されている、歴史的に重要な書物である。
ご存知の方も多いと思いますが、アニメ「機動戦士ガンダム」は、1979年4月7日からスタートしている。
ですが、いわゆる「ガンダムブーム」は、この頃に巻き起こったものではなく、1981年ごろから火がついた。
初回放送時は、今までのロボットアニメとは明らかに違うスタンスを持った作品だったため、人気が出ずに打ち切り。
その後、再放送された時に、ガンプラと一緒に火がつき、大ブームとなった。
悪いロボットが町を壊している!正義のロボットの出動だ!というテンプレートにそっていない、ガンダムは理解されるまでに時間がかかり、ネット等無い当時は口コミでその素晴らしさが伝わり3年後に火がついた、簡単に言うとそういう経緯である。
つまり「ガンダムの歴史」において、1979年~1981年の3年間は、
ガンダムのすごさがあまり伝わっていない「混迷の時代」だったと言えよう。

そんな混迷の時代・・・しかもガンダムの放送開始からわずか4ヶ月でそのすごさに気づいたのは・・・
懐が宇宙よりも広い出版社、「講談社」である。
あのガンダムの難解なストーリー(哲学)を、幼稚園児にわかりやすく解く解説書として、発行されたこちらの「すごいぞ!機動戦士ガンダム」。あえてタイトルに「すごいぞ!」と入れる直球で勝負をかけるチャレンジ精神は惹かれるものを感じる。
ぜひとも、同じノリで幼稚園児に向けて「すごいぞ!鉄血のオルフェンズ」を発行するという勝負にチャレンジしてほしい。

そしてこの味わい深いガンダムをごらん頂きたい。
どこかサッパリしているように見えるのは、目の下の「隈取」が赤ではなく白だからだ。
これは単純に塗り忘れだったようで、二版からは修正されて赤い色が入る。
そして、ガンダムの象徴とも言える、額のブレードアンテナが黄色い。
劇中では一度も黄色に塗られた事がなく、一貫して白なのだが、なぜか1979年~1981年の「混迷期」に発売されたガンダム商品は「ブレードアンテナが黄色い」という謎の特徴を持つ。
では、早速この「すごいぞ!機動戦士ガンダム」の表紙をめくってみよう。

「みんなでうたおう ガンダムの うた」
このページには、ガンダムのオープニングの歌詞とホワイトベースのクルー達が描かれている。
クルー達は全員バラバラの視点でまったく統一感が無い。まじめに設定資料を見ながら描きましたという感じがして微笑ましくもある。
みんな様々な表情を浮かべているが・・・

なぜかフラウボウだけは、大爆笑している。
「ガンダムのうた」の何がそんなにおもしろいのだろうか。
いつの時代も乙女心はわからないものだ。

3ページ目からはいよいよストーリーが始まる。
ガンダムの第一話の冒頭、永井一郎氏の重厚なナレーション
人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀が過ぎていた。
地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。
宇宙世紀0079、地球から最も遠い宇宙都市サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んできた。
という説明も、幼稚園児にわかりやすくするために非常にあっさりと加工され
『うちゅうにつくられたスペースコロニーのジオンこうこくは、ちきゅうれんぽうにせんそうをしかけました』
という、「まあ、そうなんだけど・・・」としか返しようが無い非常にシンプルな言葉に置き換えられてるところも味わい深い。

「さあ、しゅつどう!」
けしかけられる様な、いきなりの出動命令に納得がいっていない表情が伺えるアムロとブライト。
そしてその後ろにちょっと背の高い友達のような感覚で立っているガンダムに親近感が沸く。

「ホワイト・ベースとガンダムをやっつけろ」
3ページ目は、地上戦用に開発された、ドップやグフという兵器たちが、宇宙空間を進む貴重映像が満載だ。

描かれているモビルスーツたちも、非常に味わい深くてかわいい。
特にこのザクのスカート周りが、マイクロミニっぽくて、ちょっとえっちに感じるのは僕の心が汚れているからだろう。
そしてこのページの一番の魅力は・・・

不意打ちでトップダウンの命令をくらったシャアの表情だろう。
この表情は間違いなく、普段は絶対来ない社長が、いきなり営業事務所に訪れ、
「おいちょっとそこ汚れてるから掃除しろ」って言われた入社二年目の社員の表情である。
「え・・・・俺?」と思いつつも、「はい!」と元気良く返事するシャア。
これもまた、劇中では絶対に見れない貴重な絵だ。

とまあ、こんな感じで「悪の敵が襲ってきたから、正義のガンダムがやっつける」と言ったような、往年のスーパーロボット物のように展開していく新鮮なガンダム世界。
今までのロボットアニメのフォーマットではないガンダムに対する、大人の戸惑いが見えてくる。
発行が初回放送開始から、約4ヵ月後なのでまだ世界観もわからないので資料を見て作りましたという感じがいい味を出している。
このような内容から、この『すごいぞ!機動戦士ガンダム』という絵本は、当時ガンダムをわかってない人たちが作った子供向けの絵本なんだなと結論付けてしまいそうになるが・・・・
本当にそうなのだろうか?
実はこの絵本・・・視点を変えて見てみると・・・
恐ろしくマニアックな商品に思えてくるのだ。

この「すごいぞ!機動戦士ガンダム」のような「ガンダムの絵本」は、他にもいくつかあり
ザクが遊園地を襲い、それをガンダムが迎え撃つという「チャージマン研」かよ!って突っ込みたくなるようなものまである。
どの絵本も一貫して、「正義のガンダム」「悪のジオンこうこく」として描かれているところから、これは地球連邦軍がアースノイドの子供達に向けて行ったプロパガンダ絵本をイメージして作られたのではないか?
いかにも地球連邦軍が考えそうな事である。
なるほど・・・実はこの「すごいぞ!機動戦士ガンダム」は・・・
実在のパイロットをモデルとして描いた『プロパガンダ絵本のレプリカ』
として、マニア向けに作られたアイテムなのではないだろうか?

その推察を裏付けるのが、最終ページの「これがガンダムのすべてだ!」である。
連邦軍の最重要機密であるガンダムの詳細が子供でもわかるように解説を入れているのですが、どうも情報を改ざんしている記述がいくつか見受けられる。
たとえば・・・

● そうじゅうしゃ
じゅうぶん くんれんをつんだ、アムロが のる。
アムロ・レイは、民間人であり訓練はまったく受けていない。なおかつ未成年。
そんな未成年の民間人を囮専門として運用するという非人道的な連邦軍の行為を隠蔽するかのごとくまったくの嘘が書かれており、写真も連邦軍の左官が着るグレーの制服を着た見知らぬ男に差し替えられている。

● ビッグ=ガン
十センチの あつさの こうてつも うちやぶる。
中には実際に運用されていない兵装の記載まである。
当時ビーム兵器の開発が遅れていたジオン軍に対し、連邦軍は小型で高出力の火気の開発が完了しているという誤情報を与え、戦意を喪失させようとする作戦だろう。

何を打ち出しているのかいまいち理解できないが、ザクを一撃でしとめているビッグ=ガンの存在がジオンに与えた精神的プレッシャーは計り知れない。
この本・・・実はプロパガンダ絵本のレプリカ・・・そう考えると全てが納得できてしまう・・・。
それもガンダムの持つ奥深さであろう・・・。
僕はこんなにも奥深い「すごいぞ!機動戦士ガンダム」を
近所の古本屋さんにて45円で購入できた事はとても幸運だった。
しかし・・・この絵本には、最後に大きな謎が隠されていた。
背表紙・・・・

このなんとも脱力してしまう、腕をあげたガンダムのイラストの下にひっそりと隠れている最後の謎・・・・。

元の持ち主・・・ながの君・・・・。
彼はなぜここに・・・ガンダムではなく「マ・クベの壺」を描いたのであろうか?
それだけがわからない・・・。
ながの君・・・ひょっとしたらながのさんかもしれませんが・・・。
もしこのブログをご覧になっておりましたら僕に連絡を下さい・・・。
そして、なんで「マ・クベの壺」を描いたのか僕に教えてください。
教えて頂ければ、この絵本は謹んでお返しさせて頂きます。
お待ちしております。
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