
「お父さん、胃癌やねん。」
1年ほど前に母から電話でそう伝えられた。
電話でそう伝えられた僕は、しばらく何を言えばいいのかわからなかった。
しかし、早期の発見だったため胃を全て摘出すれば全然大丈夫とのこと。
全然大丈夫とはいえ、胃を全て取るわけだし、今後の食生活なんかガラリと変わってしまうだろう。
生活にも色々な制限が付き自由も削られてしまう。
手術の日はどうしても会議で行けなかったが、翌日お見舞いに行った。
母を連れて病室に行くと 「おー」 と力無い声で挨拶された。
僕は、父がお見舞いにもらったタブレットを見つけたので父と話しながらパスドラをダウンロードしてあげた。
あとはYoutubeの使い方を教えてあげた。これで少しは入院中の暇は潰せるだろう。
あれから1年ちょっと。
父の食事は通常の人と変わらないくらいまで回復して、再発・転移も見つからず元気に過ごしている。
完治はしたものの、油断はできない。
仕事が終わり、家に帰るとウォーキングにでかける。お酒もほどほどになりほろ酔いまで。
見た目はびっくりするくらい痩せてしまったけど、癌になる前より全然健康的に生きている。
多趣味な父が最近ゲームに再びのめりこんだのは、家にいながら無理なく刺激をくれるからかもしれない。

オンラインゲームは色々な人が接続し、遊んでいる。
マーケットボードの前に立っている人々、パーティーを組んだ人。
その人がどのような環境でその世界に身を寄せているかは、本人が口にしない限り
決して誰にもわからない。

光のお父さん計画・・・・。
それは、60歳を越えるゲーム好きの父にFF14をプレイしてもらい、自分は正体を隠してフレンド登録。
共に冒険を続け、いつの日か自分が実の息子である事を打ち明けるという壮大な親孝行計画である。
LV50にたどり着き、新たな世界へと踏み出した光のお父さん。
通常のゲームの経験しかない光のお父さんは、メインストーリーを追い続ける。
光のお父さん計画の最終ゴールである「大迷宮邂逅5層クリア」。
しかし光のお父さんが・・・そこに向かう理由は・・・何も無かった。

光のお父さんがLV50になり、約1ヶ月が経った。
アーティファクトを着て喜んでいた光のお父さんの装備は少しずつ「戦記装備」に変わっていた。

「戦記装備」
LV50~のダンジョンをクリアすると報酬として「アラガントームストーン」がもらえる。
LV50以降は装備するアイテムのレベルにより、自分の強さが大きく変わってくるエオルゼア。
新たな装備を手に入れる方法は、「ダンジョンなどで拾う。」「クラフターで作る。」「マーケットで買う。」などと様々。
その中のひとつに「アラガントームストーンを装備に交換する。」という方法がある。
ストーンで交換できるアイテムはとても強力でアイテムレベルが高く、長く使える汎用性がある。
その為、LV50以降は様々なダンジョンを攻略しつつこの「アラガントームストーン」を集めるのが主な生活となる。
その中で現在一番集めやすく強い装備が「戦記装備」である。

光のお父さんは、「アラガントームストーン・戦記」を825個貯め、胴装備を交換。
晴れて戦記胴を纏うこととなった。

しかしまあこの825個貯めるのが大変でw
さすがにお友達も毎日メンバーを集めるのは大変だろうから
トームストーンがもらえる「ルーレット」をお手軽にパーティーをマッチングできる「コンテンツファインダー」を使ってやってみたら?とお勧めしたのですが・・・
「知らない人と行くの不安だから横にいて!」
と、言われその日からしばらく・・・
「右、そのかどを左、バラード、範囲」
など、「息子ナビ」として活用される。
しかしその甲斐あってか、少しずつ戦闘技術も向上していった。
吟遊詩人の歌の意味も理解していく。
少しずつ、見た目も技術もレベルアップしていく光のお父さん。

一時のドラえもん装備に比べれば格段にかっこいいですからねw
うれしい気持ちはすごくわかります。
しかし現在、光のお父さんが装備を集めているのは、あくまでメインストーリーを進行するために必要なアイテムレベルを整えているからであり、より難しいレベルのコンテンツに挑みたいからではない。
そしてこの頃、光のお父さんがパワーアップする為の物理的手段も同時に進行していた。
「ああ、そうそうもうすぐ光の工事が入るから。」
「光?どうなるんや?」
「回線のスピードが今より速くなるんやで。」

ならん。
ADSLと光回線の違いを教えようかと思ったけど、別に知ったところで何が変わるわけでもないのでそっとしておいた。

そして無事「光回線」への切り替えも終了した。
これで少しはラグも軽減され、戦いやすくなるだろう。

そろそろ「レリック」を作る頃合か。
「レリック」とは、各職に用意された「専用武器」だ。

LV50以降のダンジョンは大迷宮を除き「武器」はドロップしない。
トームストーンでの交換も可能ではあるが、そのキーになるアイテムが獲得できるのはまだ少し先。
まずは「レリック」を作り、強化を図るのが良いだろう。
しかし、「レリック」を完成させるためには・・・3体の「真・蛮神」を倒す必要がある。

かつて父を追い詰めた「蛮神戦」。
その蛮神たちがパワーアップし再び現れる。それが「真・蛮神戦」。

4人のライトパーティー戦だった「蛮神戦」は8人フルパーティーに変わり劇的に難易度が増す。
強力になる攻撃は、全員が手順を覚えないと全滅の危険も多々。

そのパワーアップした「蛮神」を・・・
「真・イフリート」、「真・ガルーダ」、「真・タイタン」の順で倒さねばならない。
真・イフリートのエラプション・・・真・ガルーダのスパチラ・・・。
そして真・タイタンの重み・・・。

「息子ナビ」の力で戦闘力は向上したとはいえ・・・今の光のお父さんの力で越えられるだろうか・・・。
あの強力な攻撃の数々を・・・!!


来たか・・・真・蛮神戦支援依頼・・・!!
レリックを作れという話は父にはしていない・・・。
恐らくは、自分で調べ武器の強化が必要と判断し、レリック作成の道を選んだのだろう・・・。
自分で歩く道を自分で決められるようになったんだね・・・。
わかりました・・・全力で支援・・・・

・・・・って、あれ?
マイディー 「光のお父さん(キャラ名)、真・タイタンですか?」

え?どういうことだろう・・・
本来、レリックを作るには3体の蛮神を倒す必要があるが、その順番は決まっている。
真・イフリート、真・ガルーダ、真・タイタンの順番だ。
真・タイタン?? イフリートとガルーダはどうしたんだろう??
メンバーに聞いても誰も一緒に行ってないと言う・・・。
どういうことだろう・・・・

マイディー 「わかりました!ただメンバーを集める時間がかかるので、挑戦は週末にしましょう。」
まさかとは思うけど・・・
謎は翌日の夕食の時、早くも解けた。

切り出してきたのは父のほうから。
やっぱり真・タイタンって言ってる。
理由を聞くと、レリックを作るからだと話した。
「でもタイタンは最後やで?その前にイフとガルーダがおる。」
「それはもう終わった。コンテンツなんとかで。」

なんてこったい。
コンテンツファインダーで見知らぬ人とマッチングしてクリアしましたか!!
「Youtubeで動画見て予習して行った。」
お・・・お父さん!! いつからそんな FF14プレイヤー みたいなマネを!
いや。まあ、FF14プレイヤーだけど・・・。
しかし・・・息子ナビを使わずにクリアしてくるとは・・・おどろいた。
多分マッチングしたプレイヤーがうまくてスルっとクリアーしたんだろうけど・・・。

父は、本当にそれで楽しかったんだろうか・・・
ギミックを無視し、力押しで勝ててしまう現在のCFで行く真・蛮神戦・・・
以前の蛮神戦のように達成感に包まれたんだろうか・・・。
「わかった。一緒に予習しよう」
僕は昔に買ってあげたリビングにある「Wii」をネット接続し、真・タイタンのギミックの説明を始めた。

前半の攻撃は、さほど怖くない。
ランドスライドを見たら、避ける。避けないと落ちるからね。
気をつけないといけないのは、「重み」だ。
地面からぐらぐらと円形のダメージゾーンが沸いてくる。
爆発するまでにそこから脱出しなければいけない。
爆発に巻き込まれると大ダメージ。
お父さんの戦記胴なら即死は無いけど「重み」の円が重なっている所にいてしまうと、重なってる数だけのダメージをもらう。注意が必要だ。
重みはランダムに選ばれたキャラクターの足元に現れる。散らばって攻撃するとその分重みの円が散らばって発生するので、DPSはまとまった場所から攻撃し重みの円が発生しても散らばらないようにしておく。
こうすると円が散らばらないので重みを踏む可能性は低い。その分重なって円ができるので、逃げ遅れたら即死だ。

後半は真・蛮神から増える技が目白押しだ。
ジェイルは誰か1人を岩に閉じ込める。誰かが閉じ込められたら救出だ。
ボムは配置を覚えよう。円型。十字型。川の字型。 それぞれ落ちてきた順番に爆発する。
僕は真・タイタンの全ての攻撃の交わし方を動画を見せながら解説した。

「問題です。3列ボムが落ちてきました、真ん中、右、左・・・どこに逃げますか?」
「右!」
「残念、死にました。」
「ひゃっ」
女子か・・・。

「自分に丸いマークが付きました。ビヨンビヨン・・・どうしますか?」
「タイタンの真後ろへ。」
「正解!なんで?」
「仲間に壊してもらうため。」
そんな特訓を3日間かけて行った。
母はただポカーンと二人のやりとりを見ていた。
そして週末・・・真・タイタンへ挑む日がやってきた。
「いよいよやねーw がんばってや」

わろた。
僕は先に自室に戻り、FC:じょびのメンバーに召集をかけた。

3日かけて できる限りの予習はした。
しかし予習の効果は、攻撃に対する事前知識でしかない。
予習したからといって、クリアできるわけではない。
いくら予習しても実際に動き、攻撃を受けてみないとわからない。
予習しておけば、攻撃を食らった理由、何がいけなかったの吸収力が全然違う。
また動画どおりに必ず攻略できるものでもない。そのパーティーにあった臨機応変な作戦変更などが必要。
なぜ作戦を変更するかの理由がわかるのも予習をしている成果と言えよう。
光のお父さんが送れてログインしてきた。
マイディー 「行きましょうか!真・タイタン!!」
さあ・・・頑張りの成果・・・見せてもらいましょうか・・・。

再びタイタンの前に立つ光のお父さん。

禍々しき巨大な瞳がこちらを睨み付けている。
きりんセット!!
そう言おうとした時・・・・
コンコン。
部屋をノックする音・・・!!
え? ドアの外で、父は何も言わない・・・
なぜかちょっと心配になってさっと父の自室を見に行ったら・・・
父はパッドを握りながらこちらを見て・・・
力無く・・・こう言った・・・・

しまった・・・!!
ここで息子ナビ起動かっっ!!!
そ・・・それは・・・・
ちょっと・・・・
え・・・え・え・・・

不安そうな目をする父の向こうにあるモニターに映っているのは・・・
見慣れたFCメンバーと光のお父さん。
そして・・・「決して動かない マイディーさん」だった。
ど・・・・どうしよう・・・・。
つづく。
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