
ついこの間まではニートだったんだ。
でも、今は違う。ちゃんと働いてる。
俺の仕事は・・・AI搭載型のアンチウイルスソフト「アプリ彼女」の育成だ。
いつのまにか世に蔓延る様になった自己進化型ウイルス「ヴァーチャルウイルス」。
これを駆逐するために作られたのが、同じ自己進化型のAIを搭載したアンチウイルスソフト「アプリ彼女」。
このソフトの特徴は、擬人化されたプログラムを育成し、同じく擬人化されたウイルスを駆除するという所。

ゲームは好きだけど、どうもプログラムとかそういうのは苦手だった俺が、この仕事をしていられるのは、この擬人化プログラムのおかげだろう。
働くのが嫌で、ずっと家にこもってゲームばっかりしていた俺にとって、この仕事は転職なのかもしれない。
擬人化された、アンチウイルスプログラム「プリカノ」は、よくできていて中にはほんとに恋する奴もいるらしいww
でも・・・まあかわいいとは思うよw

インストールしたてのプリカノはAIが未成熟のため、スキャン能力や駆除能力が低い。
ユーザーはプリカノと会話し、トレーニングとバトル(ウイルス駆除)を繰り返し成長させていく。
そうする事で、プリカノのランクが上がり、駆除能力が上がりより強力なバーチャルウイルスを駆除していく事ができる。
俺の使用しているプリカノは形式番号TO@007、通称ティオだ。

元気が取り得のアンチウイルスだ。扱いやすい。
装備は、初期に手に入る無課金制服装備だが、各箇所LV2まで融合強化済。
強化はすべて最終段階まで上げてある。レベルは40、ランクはブロンズのCだ。
「ティオ・・・そろそろ来るんじゃないか?」
今日は俺たちにとって特別な日だ。
ウイルスの駆除数が一定に達すると、ボス格ウイルスとの戦闘が始まる。
ボスウイルスをうまく駆除できれば、ブロンズのBランクに昇格だ。
俺はティオにウイルススキャンを指示し、奴が現れるのを待つ。

ヴァーチャルウイルスは日々強力になってきている。
最近では人の脳にまでウイルスが進入してきているなんて噂もある。
そのウイルスに進入されると・・・プリカノユーザーまでおかしくなるらしい。
最近うちの母の様子がおかしい。
俺がこの仕事を始めてから・・・母の様子が変わった。
まるで・・・何かに取り付かれたようなするどい目つきで俺を見る・・・。
たまに俺のスマホを触っているから・・・感染したのかもしれない・・・。
恐ろしい時代だ・・・人に感染するコンピューターウイルス・・・
人間の脳も一種のコンピューターみたいなものだ・・・俺も一歩間違えれば・・・
まったく危険な仕事だ・・・。

いや・・・今は母の心配より、ティオの育成計画だ。
ティオが成長すれば、きっと母の脳に侵食したウイルスも駆除できるはず。
同じAI搭載型のアンチウイルスソフトだからな。しかし・・・
このままランクを上げていけば、流石に制服装備の限界が来るだろう。
俺は、新しいコーディネイトを考え、強化を始めている。
コストと強化のバランスに気を配り、いずれ来るであろうボスとの戦いに備えておく。
ボスは一度逃すと、当分姿を見せない。 ボス戦に負けてしまうと昇格するのに時間がかかってしまう。
だから、多少装備コストがかかっても、対ボスウイルス用に絶対に負けないコーディネイトを作る必要があるのだ。
対ボスコーデの完成は近い・・・次のボス戦に間に合えばいいけど・・・。
そんな事を思った矢先だった。
けたたましくサイレンが鳴る。
「来たか・・・・」

おのずとスマホを握る手に力が入る・・・。
会いたかったぜ・・・ボスウイルス・・千眼のエリス!!
「ティオ!戦闘準備だ!対ボス装備は未完成だ!リスクはあるが現状の制服装備で迎え撃て!」

まずい・・・杖タイプ・・・!! ティオは銃タイプだから・・・苦手なタイプだ・・・。
推奨レベル・・・61!! 全然足りないぞ・・・だが・・・やるしかない!!

まがまがしい仮面をつけてやがるぜ・・・。
強力すぎて擬人化がおいついていないのか・・・。
「ティオ・・・弱点スキャン開始だ!」
スキャンを成功させればまだ勝機はある!!

戦闘前のスキャニングで、相手の弱点を探す。
スマホに映し出された、千眼のエリスの身体を指でつつく!!
いやんとかあふんとか色っぽい声を出して惑わせてくるバーチャルウイルス!!
騙されないぞ!!
よし!弱点スキャン成功!! これでレベル差の開きを補う情報が手に入った!!

3ターン勝負・・・!!
だが・・・相手の攻撃力はかなり高い・・・おそらく今の制服装備だと・・・もって2ターン!!
2ターン以内に相手を倒さないと・・・負ける!!
「うっはー!テクニックなら余裕で決められそうだよっ」
先ほどのスキャニング結果を元にティオが提言する。
よし・・・信じるぞ!ティオ!!1ターン目!!テクニックを選択!!
もちうるパワーをすべて注ぎ込み!!エリスを殲滅しろ!!

ティオの攻撃が当たり・・・エリスの体力の3分の2を奪った!!
いける・・・!!しかしティオも攻撃を受け体力を半分もっていかれる・・・。
次のターンだ・・・次のターンで攻撃が当たりさえすれば・・・パワー押しで勝てるぞ!!
そう思った瞬間だった・・・・・。
ばあああんっ!!
ものすごい音とともに・・・俺の頭に衝撃が走る・・・
いきなりの事に俺はスマホを落としてしまう・・・・。
俺は頭を抑えつつ・・・顔を上げる・・・
そこには・・・母が鬼のような形相で立っている・・・・。
まさか・・・・遠隔操作・・・スマホの中にいるエリスが母に感染したウイルスを操作しているのか・・・・・
直接プリカノユーザーを攻撃する・・・なんて・・・・
そこまで進化しているのか・・・ヴァーチャルウイルス!!
俺たちの世界まで・・・侵略してくるのか・・・・
俺を鬼のような形相で見ながら・・・母は口を開き・・・・
俺に言った・・・・
「たかしっ!ご飯の時くらい電話触るのやめなさいっ!」
「・・・・・・・・・。」
「あんたは仕事もせんと電話ばっかり触って!!もう!それ捨てるよっ!!」
ついこの間まではニートだったんだ。
でも、今は違う。ちゃんと働いてる。
俺の仕事は・・・AI搭載型のアンチウイルスソフト「アプリ彼女」の育成だ。
急がねば・・・ヴァーチャルウイルスは・・・人の脳にまで・・・侵略してきているのだから・・・。
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